それを思いついたのは本当にただの気まぐれだった。



||| 眠る言葉 |||




 いつ思いついたのかさえ、定かに覚えては居ない。
 ただ、まだ存命だったヒューズがいつものように下らない電話をかけてきて、こちらは忙しいというのに「グレイシアがエリシアが」と惚気倒していて――私はそれを自分の執務室の机に肘をつきながら耳を素通りさせていた時のことだったように思う。
 あの頃そんなことは日常茶飯事で、今にして思えば、ああ聞き流したりして勿体なかった、もっと真剣にあいつの声を耳に仕舞い込んでおけば良かったと思うばかりだが、人なんてそんなものかもしれない。
 亡くしてからいつまでもいつまでも、喉につかえて取れない小骨のような後悔をするのだ。
 ともあれあの当時の日常化した他愛のない風景の中で、私は手に持ったペンを弄びながら、ふとその『計画』を思いついたのだ。

 それは、大変に私の気に召した。
 どのくらいだったかといえば、その後のヒューズの馬鹿話を1時間に渡って怒りもせずに聞き流していられたくらいだ(もちろんそのあとでたっぷりと中尉に冷たい視線ときつい言葉をくらったが)。
 電話の間中、その思いつきは私を楽しませ興がらせてくれた。
 思いつきは私が後見人になっている兄弟に関する計画で、彼らがその計画を知った時にどんな顔をするだろうか、と――特に、あの金色の生意気な兄のほうがどんなに不意打ちを食らって戸惑って間抜けな顔をするのか想像して可笑しかった。
 中尉に半ば強制的に受話器を置かれた後、私はだから、うきうきとしながら仕事をこなした記憶がある。有能なお目付役である彼女は非常に怪訝そうに私を見たが、そんなことも気にならないほど私はその計画が気に入っていた。
 その時からずっと計画はひそかに進んでいた。

 悪戯のような私のささやかな秘密の計画は、後にヒューズが死んだあと、単なる思いつき以上のものを秘めるようになった。
 それはずっとずっと、時に私の楽しみであり支えにもなった。
 認めるのは面映ゆいが、つまるところそれは、私の取るに足らない仕様のない感傷のようなものだったのかもしれない。

 いずれにせよ、楽しみだ。
 この計画を知ったら、鋼の、君は怒るだろうか。呆れるだろうか。
 きっとあの金色の瞳をめいっぱい開いて呆れたように「はあ?」とかなんとか言うだろう。
 それから子どもらしさの残る目元を、如何にも嫌そうに歪め「ばっかじゃねえの、あいつ」とかも言いそうだ。
 面白い。
 私がその顔を見れないのは残念だが、想像するだけでも大人げなく浮かれてしまうのが判る。
 私の、ささやかで子どもっぽい、君に仕掛ける最後の悪戯だよ、鋼の。めいっぱい悔しがって、悪態をついて、地団駄を踏んで、暴れてくれ。
 その時限爆弾のような計画が発動する時が、ある意味、楽しみだよ。
 なあ、鋼の。